注目の技術・製品
日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社

今回の『注目の技術・製品』は日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社(以下、NPAC)、代表取締役社長の西村智志氏にご登場いただきます。

NPACは、1972年に設立された日本ビー・ケミカル株式会社を母体に、2015年に再編された塗料業界世界4位のシェアを誇る日本ペイントホールディングスのグループ会社です。車のボディーやバンパー、内部の部品に至るまで、車にまつわるすべてのコーティング材に関する最先端の研究が行われています。そんな国内だけでなく世界に通用する技術が、ここ枚方市で開発されているのです。

一体どのような研究開発が行われているのでしょうか。また社長の思いについても伺いました。

表面処理から塗装まで一気通貫で車の塗装を担うのは、日本で日本ペイントグループだけ

自動車用塗料の役割とは、具体的に何でしょうか?

世の中には、数多くの車が走っていますが、どの車にも必ず塗料が使用されています。塗料は、見た目の美しさを与える「美観」、車をさびや傷から守る「保護」、さらには熱を遮る、傷を修復するなど「機能」の役割を果たしています。これらの役割は、厚さにしてわずか0.1mmの中に技術をぎゅっと凝縮しています。

自動車の塗装は、表面処理(素材表面の油や錆の除去、塗膜の密着性向上など)、電着塗装(ボディの腐食を防ぐ防錆技術)、上塗り塗装(他には無い特別なカラー、均一で美しい仕上り、高耐久性能他)などの工程を経て完成します。これらの工程はどれも非常に重要であり、高度な技術を必要とします。

このような工程を全て一社で行えるのは日本では当社だけです。
当社は自動車塗料メーカーとして長年の経験と知識・技術を蓄積しており、高品質な塗料を提供することで業界をリードしています。お客様のニーズに合わせたカスタムメイドの塗料製品を提供し、自動車塗装のあらゆるニーズにお応えします。

代表取締役社長 西村 智志 氏

車は「塗る」から「貼る」へ フィルムコーティングで環境にやさしく

今はフィルムでコーティングする車が多いと伺っています。詳しく教えていただけますか?

従来のスプレー塗装では実現できなかったデザイン施工や機能性を付与できるフィルムコーティングを、「加飾フィルム」と呼んでいます。

加飾フィルムは、かっこいい見た目のメタリック感や彩色といった多彩な意匠に、光を取り入れた意匠、昼と夜とで異なる模様が楽しめるといったデザイン性に加え、自動運転のセンサーの電波を透過させるといった機能性もあります。この透過は、塗料では難しいのですが、加飾フィルムは非常に優れていると言えるでしょう。

フイルムを貼っても光が透過できる。
これにより、ミラー部分に別でライトを設置しなくてもよくなり工程が減る。

(左)昼間 (右)夜間
模様があるフィルム。バックライトをあてると違う模様が浮かび上がる。

加飾フィルムを施すには、どのような方法がありますか?

工法は複数ありますが、その中でもよく検討される2つの工法を紹介します。

1つはアウトモールドラミネーション工法です。射出成型部品に、本来塗装するところを、その代わりに加飾フィルムを貼り付けます。手で貼る必要はなく、専用の装置を用いて自動でキレイに貼り合せることが可能です。

もう1つはフィルムインサートモールドラミネーション工法です。これは準備した加飾フィルムを事前に3次元形状に賦形し、それを樹脂部品を作る金型に入れ、射出成型部品を作成するのと同時にフィルムを熱融着させ加飾を完了させるものです。モノ作りの一次工程で加飾が完了するので非常に効率的なプロセスとなります。

お客様のニーズに合わせて工法を選択し、それに適したフィルムを開発しております。

伸ばしたりして、フィルムの強度が落ちたり色が薄くなったりしないですか?

「伸ばせるフィルムにすると柔らかくなるので傷がつき易いのでは?」
「伸ばすことで色の変化が出てしまったりしないのか?」
「塗装とフィルム加飾で同じ色を出すことができるのか?」

これらはフィルム加飾を適用する上での重要な課題です。私たちは研究・開発を進め、これらの課題を克服する方策を見出しております。バンパーのような複雑な形状であっても、しっかり貼り合せることができ、且つ均一な色を発現させることが可能です。

塗装用の塗料を作っているのは私たちですので、当然、塗装とフィルムで色を合わせることも可能です。

バンパー部のフイルム。
伸縮性に富んだフィルムは凹凸があっても細部まで貼れる。

(下)塗料 (上)フィルム
塗料メーカーだから塗料もフイルムも同じ色で統一できる。

塗料の専門家である御社の特長が、生きるわけですね、SDGsについてはいかがですか?

持続可能な社会の実現に向け、我々は環境に優しい製品を提供する責務を負っております。塗料はお客様の塗装工程で使用され、その塗装品が市場に展開される訳ですが、残念ながら、このプロセスは様々な環境負荷の要素を含むものです。

VOC(揮発性有機化合物)による大気汚染や、塗装ラインに用いるエネルギーの大きさからくる二酸化炭素の排出などがそれに該当する事例です。我々は、塗料の水性化などVOCの発生を低減させる製品や、低温硬化など小さなエネルギーで加工できる塗料の開発を進めてきました。

これら環境負荷低減の効果を更に飛躍させる手段の一つに、このフィルム加飾工法があります。より少ない加工エネルギーで加飾ができたり、材料のリサイクル性を高める工夫を取り入れたりと、今後の環境課題を解決する1つの有効な手段として我々は非常に期待をしております。

フィルム事業部 事業部長 小林 和人 氏

環境課題といえば欧米、特にヨーロッパは高い意識を持っています。さまざまな課題をクリアするのは大変だと思いますが、いかがですか?

課題は非常に大きく大変なことは間違いありません。しかし、この課題は必ず解決しなければならないもので、我々も当事者として全力で取り組んでいます。フィルム加飾技術は、欧米より多くの関心を寄せられております。1つの事例として、自動車塗装技術国際会議 「第6回SURCAR 2023 in Detroit」にてフィルム加飾技術及びその環境課題の対策効果を発表いたしました。

多くの自動車メーカー様、部品メーカー様含め関連企業の発表が行われる中、審査員特別賞である「Jury's Award」という大変名誉ある賞を受賞することができました。

世界の関心が集まっていることを実感し、この技術を社会に確実に提供できるよう一層の努力をしていかねば、と改めてその価値を捉えなおした次第です。

award photo 1

「第6回SURCAR 2023 in Detroit」での『Jury’s Award』受賞の様子

あらためて、なぜそこまでフィルム開発に力を入れているのか教えてください。

やはり世界的なCO2の削減という課題に取り組んでいるからです。塗料での塗装は、その工程で大量のCO2を排出しますが、一方、フィルムを使えばCO2を出す工程を大幅に減らせ、工数も簡略化できます。工場面積も減らせて省人化も可能です。

さらに今、自動車産業は100年に1度の大変革期を迎えています。世界が次世代の車のあるべき姿に向けて動いているわけですが、昨年大手電気自動車メーカーが、今後は従来の車の製造方法を根底から変えると発表しました。より効率性を高め、安価に製造するのが狙いと言いますが、当然塗料もこれまでの「塗る」から、進化を求められるでしょう。ものづくりのプロセスの変革に伴い、私たちも塗装以外の価値を、お客様にご提供できないかと考えています。その答えの1つが、フィルム開発なのです。

枚方市の皆さんと共に歩む

NPACは、なぜ枚方市に拠点を置いたのですか?

NPACの前身の、「日本ビー・ケミカル」が枚方に本社および製造工場を構えていたからです。もともと西日本には塗料会社や化学メーカーが多いのです。その中でも枚方市は、研究や生産に必要な広い敷地が確保できることや、高速道路を使った輸送がスムーズであることが決め手ですね。

社員の皆さんも、枚方市民が多いですね。

DSC_6183-(2)-1

ニッペパークに大型モニターを寄贈しました。

はい、多くが枚方市内に住んでいます。枚方市の発展は社員の生活環境を良くし、ひいては弊社の発展につながると信じています。その意味で、NPACと枚方市は、一つだと考えています。市役所の隣の公園は、2019年にネーミングライツを取得して「ニッペパーク」という愛称をつけさせていただき、ボランティアで公園内の遊具の塗装も行いました。また、日本ペイントグループは、日本ペイントマレッツという卓球チームを保有しており、枚方市に所在する小学校などに卓球台を寄贈し、選手との卓球イベントなどを通じて枚方市民の皆さんと交流を図っています。

枚方市の皆さんに私たちを知っていただきたいという思いもありますが、やはり社長として一番の思いは、社員の一人ひとりに「市に貢献している会社で、自分は働いているのだ」と誇りをもってもらいたいからです。社員が家族に自慢できる会社であること。それは必ず、会社の発展につながると考えています。そしてわが社だけでなく、市や市民の皆さんと一緒に未来に向けて発展していきたいと思っています。

ニッペパークの遊具に弊社従業員とその家族で塗装ボランティアを行いました。

西村社長が大切にしている言葉は何ですか?

無題

「Stay Hungry Stay Foolish」です。Apple社を創業したスティーブ・ジョブス氏が言った言葉で、直訳すると「ハングリーであれ、愚かであれ」ですね。しかしこの言葉は、頑張れ、常識を疑え、間違っても良いからという、チャレンジを促す言葉に思えます。

ロサンゼルスドジャースの大谷選手だって、10回に7回はアウトになりますが、それでも素晴らしい選手だと称えられます。ここで振り返っていただきたいのが、「皆さんは10回、打席に立ちましたか?」ということです。

10回打席に立ち、たとえ7回、8回失敗してもそれを責めない会社にしたい。そうした風土を醸成させ、よりよい方向に社会を変えていく会社へ成長していきたい。化学は世界を変えられる。そしてこの枚方から世界を変えたいと、本気で思っています。

お問い合わせ

日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社

〒573-1153 大阪府枚方市招提大谷2丁目14−1

公式ホームページ

写真_枚方本社-写真

お問合せ