情熱ものづくりインタビュー
三和レジン工業株式会社
「縁をつなぐ」「恩返し」。ものづくりのベースにあるのは感謝の心
第14回のインタビューでは、包装資材加工メーカーの三和レジン工業株式会社の昆田武久社長にご登場いただきます。
前身の三和製作所から1971(昭和46)年に三和レジン工業株式会社が創業され、以来、発泡ポリエチレンシートを基材とした緩衝材の加工メーカーとして成長してきました。いわゆる「プチプチ」と得意の圧着技術で、自社製品の開発も行っています。創立50周年を迎えた三和レジン工業の昆田社長にものづくりの想いや今後の展望を伺いました。
はしごを外される怖さを知っている、だから自分たちで仕事を作る。
――――社名にある「レジン」とは、どういう意味ですか。
「レジン」とは樹脂のことです。三和レジン工業は、今年で創立50周年を迎えます。実はこの会社は、祖父が「三和製作所」という軍需工場を興したのが始まりです。当時は、石板のようなものを作るなど、今とはまったく異なる会社でした。
――――現在のような緩衝材を加工し始めたのはいつですか。
昭和46年に三和レジン工業となってからです。主に二十世紀梨を包む緩衝材の加工にはじまり、圧空成形した冷凍食品トレイの製造、また保温チューブといってエアコンの配管に巻いたり、水道管に巻いて冬場の凍結を防いだりするチューブも作っていました。さらにラミネート技術を使ったキャンプロールや、重梱包用緩衝材も製造していました。電柱や水銀灯など、かなりの長さや重さのある支柱の裏面にキズが付かない様に梱包され、ちぎれることなくしっかり支えられます。
これらは某大手メーカーの下請けとして請け負っていたもので、おかげで当社は大きく成長できました。ところがある日、今後は本社工場で製造するからと、なんと製造技術ごと加工機共々、仕事を一斉に引き上げられたのです。
それが分岐点でした。「今後は、何か一つだけに頼ることなく生きていこう。自分たちで営業し、いろいろな仕事を取ってこよう」と、大きく方針転換しました。
私たちの身近にも。高い技術力を持った三和レジン工業の商品。
――――現在は、主に「プチプチ」と呼ばれる梱包材の商品を作っておられます。
「プチプチ」は、正式には気泡緩衝材といって、大手メーカー3社が製造しています。私たちは気泡緩衝材の他にも断熱や衝撃に強い各種素材を、顧客の希望のサイズにカットしたり、袋状に加工するなどしています。多種多様な形状がありますが、それは何を包んだり入れたりするかによって変わります。
―――実はこんなところにも使われているといった、身近な隠れ商品はありますか。
特に今はアマゾンの梱包資材がよく出ています。例えばワインボトルや清酒の一升瓶を包むプチプチは、包む手間を省くため袋状にしてご提供しています。袋は万が一、瓶が割れても液体が漏れ出ないように高いラミネート技術を用いて、継ぎ目をしっかり溶着させています。強度の高い継ぎ目は、力いっぱい引っ張ってもなかなかちぎれません。自社で研究開発した技術です。
―――包む以外の製品も作っておられますね。
3Sスマートシート
「3Sスマートシート」は、数多くの道具や事務用品の整理整頓に大変便利な収納シートです。道具の形にくり抜いて、そこに収めるだけ。くり抜き作業で使うのは、ナイフなどの刃物でなくペン1本。ペン先で抜けるよう設計しています。安全で、周囲に刃物がない環境でも使えますよ。
また、クッション付きレジャーシートを作っています。座っていても腰が冷えにくく、地面のデコボコも気になりにくいので、一般向けと、ノベルティとしていくつかの企業に採用されました。また、ある放送局のファミリーコンサート会場に敷く、6mmと厚めの発泡素材の座席シートも作りました。印刷フィルムを発泡シートに貼り合わせるのですが、異素材同士だとシートがフラットにならず、カールしてしまうといった欠点があったのです。でもそれでは参加する子どもたちがつまづいて転んで危ない。弊社は欠点を解消するフラット加工に成功し、採用されました。またコープさんの宅配ボックスにも、カールしない断熱材として弊社の発泡シートが蓋として役立っています。
―――どのようにして、アイデアが生まれるのでしょうか。
お客様のお困りごとです。それも、すでに方々で断られたという無理難題なお困りごとに直面すると、負けず嫌いな私はいわゆる「ゼロ回答」はせず、何とか解決策はないかと考えるのです。そこからヒントが生まれます。実はお困りごとには、商品アイデアがたくさん詰まっているのですよ。
「3Sスマートシート」も、そうして生まれた商品です。大切なのは、「相手の身になって物事を考える」ことです。
―――新型コロナウイルスの影響はいかがですか。
一時期、売り上げが対前年の6割まで落ち込み、税理士さんからは「7人リストラを」といったアドバイスまで受けました。そんなことはできませんから、社員の帰休制度を利用。さらに利益も出さねばならないので、可能な限り工場を効率よく稼働させるにはどうしたらいいのか知恵を絞りました。そこで10月は金曜から日曜まで毎週3連休にして、あとの4日間は全員出勤にし、さらにローテーションを組んで時間ごとに社員が持ち場を移動するなどして、多能工化を図りました。社員も目標を持って、大変密度の濃い仕事をしてくれたおかげで、11月と12月は仕事量が増加し、12月と1月の売上げは対前年比110%を超えました。今年度は営業赤字の中でも、痛手はなんとか最小限に抑えられました。ピンチをチャンスに変えられるよう、今も必死で取り組んでいます。
コロナ禍でも売り上げを回復。支えとなった想いとは。
―――珍しい自慢の設備や技術は?
私は幼い頃から工場に出入りし、機械いじりが大好きです。またあまのじゃく的な性格で、「こうしろ」と言われても「不便だな」、「もっと効率良くできないかな」と思えば、どんどん試していました。今、工場機械設備には私のアイデアが随所に散りばめられています。1台ごとに取り付けてあるカウンターに仕上がった枚数を表示したり、複数の工程をワンタッチでできるようにしたり、さらに2人で管理する機械を1人でやれるよう改良しました。
また、カッターの刃を換える機構は、誰でも安全に行えるように変更しました。事故が少しでも無くなるように努力しています。何より社員に安全に働いて欲しいですからね。
しかもそれらは、希望者に見せて教えてしまいます。通常は技術を盗まれるなどの理由で、決して見せないものですが、私は、そうして喜び感謝してくれる人と、どんどん縁をつないでいくのが楽しいんです。互いに感謝できる、良い関係を築くことは楽しいのです。
先日も取引のある銀行から、「ある会社の製造ライン改良のためのアドバイスをお願いしたい」と頼まれました。見て問題点を分析し、解決できる業者を紹介しましたが、私は一切、両者の間に入りません。ましてや手数料のようなものもいただきません。第三者的な立場を守るからこそ、忖度のない意見ができます(笑)。他にも同様の依頼が舞い込みますが、最終的な売り上げを計算した上で新機械の導入を進言したり、私でできることなら見積もりを提出したりします。
たとえ、直接弊社の売り上げにつながらなくても、ご縁をつないだことで恩義を感じてくださった人は、私どもに次の仕事を紹介したり、仕事を回すことで、恩で返してくださいます。おかげで私は、価格競争や販路拡大に神経をすり減らすことはありません。
―――社員が安心して、長く勤められる取り組みや工夫はありますか。
この2年半で5人入社し、全員が正社員となりました。定着した理由は、意志を明確に伝えるコミュニケーション法だと思います。私は、「はい」は相槌と考えます。弊社では、教える方は「わかりましたか」と聞き、教わった方は「わかりました」と答えるよう指導し、「はい」は禁止。わからない時は返事をしません。私だって面と向かって「わかりません」とは言えませんからね。5人はそうして仕事を覚え、力をつけていってくれました。
ここでのポイントは、教える方が「返事しないときはわかってない」ときちんと理解しておくことです。黙っている社員に、間違っても「えらそうに」と思ってはいけません。そのため教える方にはリーダー教育が必要で、すでに5年前から取り組んでいます。三和レジン工業は、教えるのが上手であればあるほど給与を上げる仕組み。会社にとっては一流社員が早く育つので、これほどうれしいことはありません。
ちなみに、弊社は社員にノルマを課していません。営業担当に対してもです。ノルマがあると、何か不都合があった時にウソの報告をしがちだからです。私は日頃から「当たり前のことをばか正直にやろう」「決められたことを守ろう」と伝えています。人間なのでミスやロスは許しますが、ズルはいけません。
―――今年50周年を迎えて、思うことは何ですか。
日本では、一つのことだけ頑張る企業は、創業後15年程でなくなるそうです。この50年の間、大変な時期もたくさんありました。その中で、さまざまな顧客から注文を受け生産する商品、また自社商品を持ち、しかもそれらの分野が多岐にわたるおかげで、何か一つが消滅しても他で伸ばしながら、これまで続けてこられています。社員の多能工化も同じ理由で、一つの技術だけではなく、複数の技術を身につけた方がフレキシブルに働けるからです。そうやって頑張る社員には、ボーナスで評価しています。
―――今後の三和レジン工業を、どのようにしていくかお聞かせください。
感謝の心を大切に。お客様や取引先の方に感謝していただける仕事をし、社内でその感謝を報告、共有できる信頼関係作りを行っていきます。
もし先方から仕事の依頼が来て、費用の折り合いがつかなくても、そこは正直に伝えた上で一度ならお受けしても良いでしょう。それで恩義を感じていただければありがたい。私は一番の損は、「信用を失うこと」と思っていますからね。
三和レジン工業では、社員が自分のペースで仕事ができるよう、適材適所で働いてもらうことを考えています。会社が絶対に忘れてはならないのは、「社員の安全」。そして「簡単に楽に」です。新人でもベテランレベルの仕事ができるような仕組みを整えれば、高い人件費で相応の利益を出せる人材がそろいます。特にこれからの会社は、「仕組み作り」の一言に尽きます。
三和レジンは製造業ではなく、サービス業です。「必要とされているユーザーに、必要なものを必要な時にお届けする」をモットーに取り組み、これからもどんどんご縁をつないでいきます。